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前立腺癌(前立腺腫瘍)について

前立腺癌(前立腺腫瘍)について

前立腺癌は、日本では以前はあまり多くはなかったのですが、ここ最近、人口の高齢化に加えて生活様式の欧米化が進み(欧米に比べ脂肪の少ない食事が良いと言われてきたのですが)、前立腺癌は増加しています。前立腺癌は、近年、もっとも増加しているがんのひとつとして注目されています。2022年12月現在の国立がん研究センターの統計によれば、我が国で2018年に新たに診断されたがん98万856例のうち、前立腺癌は9万2021例で、罹患数は第一位でした。また2020年にがんで死亡した男性は22万989人で、前立腺癌で死亡した人は1万1759人で、男性のがんの中で6番目に多い数でした。また、2009年から2011年に診断された前立腺癌のうち、10.9%が初診時に転移があり、その方たちの5年生存率は60%を下回っています。また、前立腺癌の罹患率は、加齢とともに急激に上昇します。
前立腺癌は、現在増加しているがん種のひとつであり、早期発見、早期治療の必要性が認識されつつあります。
国立がん研究センターによると、2019年の男性の推定がん罹患者数は、大腸癌の89100人を第一位として、以下胃癌・肺癌・と続き、前立腺癌は78500人で第四位です(第五位は肝臓癌で24500人と続きます)。2019年の男性の推定がん死亡者数は、肺癌の54400人を第一位として、以下胃癌・大腸癌・膵臓癌・肝臓癌と続き、前立腺癌は12600人で第六位です(第七位は胆嚢・胆管がんで9400人)。
また、前立腺癌の罹患率は、加齢とともに急激に上昇します。

早期の発見には、血液検査<前立腺特異抗原(PSA)>が重要であり、50歳を過ぎたら年に1回の検査は必要と考えます。

前立腺癌の症状としては、排尿困難、頻尿、排尿痛、血尿、腰や下肢の痛みが代表的ですが、無症状のことも多いようです。

確定診断には、確定診断には、前立腺生検が必要です。前立腺生検とは、エコーで観察しながら経直腸的に前立腺に針を刺して前立腺の組織を一部採取し、その組織を顕微鏡で見る検査です。検査当日は入院する2日間の入院を要する検査ですが、実際に行っている時間は10分程度です。当院ではMRIを前立腺生検前に施行し、癌が疑われる部位を前立腺生検時に使用するエコーに表示してそこを穿刺して前立腺癌の見落としを少なくするMRI fusion前立腺生検を施行しています。生検によって得られた組織を下記の如くに組織分類します。
Gleason score(グリーソン スコアー)2から10(7が中間で数が大きくなるほど癌細胞の勢いがよい)に分類する方法、それを使ってグループ1~5に分類する方法があります。

確定診断後は、病気の拡がり具合の決定のため、CT、MRI、骨シンチ(全身の骨のレントゲン検査)が必要であり、時に膀胱尿道鏡(膀胱、前立腺の内視鏡検査)、等が必要となります。これらの検査によって、TNM分類あるいは、Jewett Staging Systemによって、病期を分類します。

TNM分類

T0: 原発腫瘍を認めない

T1: 触知不能または画像では診断不可能な臨床的には明らかではない腫瘍
   T1a: 組織学的に切除組織の5%以下に偶発的に発見される腫瘍
   T1b: 組織学的に切除組織の5%を越え、偶発的に発見される腫瘍
   T1c: 針生検により確認(たとえばPSAの上昇による)される腫瘍
   
T2: 前立腺の限局する腫瘍
   T2a: 片葉の2分の1以下に存在する腫瘍
   T2b: 片葉の2分の1以上に存在する腫瘍
   T2c: 両葉に存在する腫瘍

T3: 前立腺被膜を越えて進展する腫瘍
   T3a: 被膜外へ進展する腫瘍
   T3b: 精嚢に進展する腫瘍

T4: 精嚢以外の隣接組織に固定または浸潤する腫瘍

N-所属リンパ節
  N0: 所属リンパ節転移なし
  N1: 所属リンパ節転移あり

M-遠隔転移
  M0: 遠隔転移なし
  M1: 遠隔転移あり
    M1a: 所属リンパ節以外のリンパ節転
    M1b: 骨転移
    M1c: 上記以外の部位への転移

Jewett Staging System

病期A:臨床的に前立腺癌と診断されず前立腺手術(主に前立腺肥大症手術)においてたまたま組織学的に診断された前立腺に限局する癌
A1: 限局性の高分化型腺癌
A2: 中あるいは低分化型腺癌、あるいは複数の病変を前立腺内に認める
病期B:前立腺に限局している前立腺癌
B0: 触診では触れずPSA高値にて精査され組織学的に診断
B1: 片葉内の単発腫瘍
B2: 片葉全体あるいは両葉に存在
病期C:前立腺周囲には留まっているが、前立腺被膜は越えているか精嚢に浸潤する前立腺癌
C1: 臨床的に被膜浸潤が診断されたもの
C2: 膀胱頸部あるいは尿管の閉塞を来したもの
病期D:転移を有する前立腺癌
D1: 所属リンパ節転移
D2: 所属リンパ節以外へのリンパ節転移あるいは他臓器への転移

治療は、PSAによる経過観察、手術療法、内分泌(ホルモン)療法、放射線療法、が主体であり、化学療法を組み合わせることもあります。いずれも治療効果は著名であり、前立腺癌への早期治療は、治療効果を高めるためには重要と考えます。

公立館林厚生病院にて加療した前立腺癌の概要です。

1985年-1999年: 373症例
2000年:45症例2001年:36症例2002年:46症例2003年:123症例
2004年:109症例2005年:68症例2006年:94症例2007年:101症例
2008年:86症例2009年:103症例2010年:73症例2011年:100症例
2012年:100症例2013年:108症例2014年:103症例2015年:102症例
2016年:99症例2017年:90症例2018年:97症例2019年:98症例
2020年:74症例2021年:80症例2022年:106症例

※2003年に館林市前立腺癌検診を開始したのでその年から急激に増加しています。

治療方法は下記のようであり、手術療法と放射線療法は根治的治療の性格を有します。

監視・待機療法:
監視療法(PSAを3ヶ月毎くらいで採血し、上昇傾向を認めたり1年後の再前立腺生検で悪化所見を認めるまで手術や放射線等の根治療法を待つ)や待機療法(PSAを3月毎くらいで採血し、上昇傾向あるいは症状出現を認めるまで内分泌療法等の加療を待つ)といわれる治療法で、治療の重要な部を占めています。前立腺癌は進行が遅いことが多いので厳重に進行具合を観察することによって治療の副作用を避けながら、前立腺癌による症状の出現や生命の危機を避けようとする治療法です。

手術療法:
前立腺全摘術という手術です。前立腺および精嚢を摘出し、膀胱と尿道を吻合します。適応がある方には標準リンパ節郭清を施行しています。当院では、腹腔鏡による前立腺全摘術を施行しております。当院泌尿器科では3D内視鏡による3D画像での腹腔鏡手術を行っています。3Dによる立体感のある拡大画像をみながら、より正確で低侵襲な手術ができる方法です。
7月からはロボット支援下手術を開始します(ダビンチを使った手術)。より正確で低侵襲な手術です。
術後の疼痛コントロールのために鎮痛剤の定時的点滴を併用するので術後の痛みも少なく翌日には歩行できます。入院日数は10日間です。主な合併症としては、出血(当科では自己血にて対処)等の手術時の身体への負担の他、術後の尿失禁(大部分で1ー3ヶ月以内に消失しますが、ごく軽度の尿失禁が残ることもあります)、インポテンツ(勃起神経の温存術式で避ける事も可能)です。他に開腹術、ロボット支援下で腹腔鏡で手術を行う方法があります。

放射線療法:
前立腺癌病巣の制御に効果があります。合併症としては膀胱炎(頻尿等)、直腸炎(頻便等)が起こることがあり、晩期の合併症として膀胱や直腸よりの出血が見られることがあります。照射方法は外から放射線を前立腺に当てる方法(外照射)と前立腺に針を埋め込んで前立腺の中から放射線を当てる方法(組織内照射)があります。当院では放射線を多方向からあてて集中させることにより副反応を軽減しながら施行する治療効果の高いIMRT(強度変調放射線治療)による外照射が可能であり、原則として1年間治療効果を高めるため内分泌療法を併用します。他の外照射方法には、通常の原体照射(3D-CRT)や重粒子線の照射があります。

内分泌(ホルモン)療法:
大部分の前立腺癌は男性ホルモン依存性であるため、男性ホルモンを抑制することによって前立腺癌の増大を抑えます。内分泌療法の合併症としては性欲減退や勃起力低下は必発であり、時に顔面紅潮や発汗・軽い筋力の低下・下腹部を中心として皮下脂肪の増大・血糖の異常・まれに脳心血管障害を来すことや認知力が低下することがあります。
内分泌として代表的なものは下記の方法があります

  • 精巣摘出術(30分ほどの手術です。)
  • LHーRHアゴニストあるいはLHーRHアンタゴニストの皮下注射(4週毎あるいは12週毎あるいは24週毎の皮下注射にて脳からのホルモンによる命令を抑制して男性ホルモンを抑制します。)
  • 女性ホルモン(エストロゲン)剤(効果的ですが、重篤な合併症として心血管障害があります。)
  • 抗男性ホルモン(抗アンドロゲン)剤(時に女性化乳房、肝機能障害を認めます。)
  • 新規内分泌療法剤(抗男性ホルモン剤と男性ホルモン生産抑制剤があります。)


化学療法:ドセタキセルまたはカバジタキセルという抗癌剤での治療が一般的です。

化学療法DNA修復阻害薬:オラパリブ(リムパーザ)という薬剤です。
公立館林厚生病院で2022年に発見された106症例(病期、A:2例、B:77例、C:9例、D:18例)の初回治療の内訳(他医での加療症例や2023年での治療予定症例も含む)は、監視・待機療法27例、内分泌療法(±化学療法)18例、手術療法24例、放射線療法(±内分泌療法)35例、未定1例、不詳1例でした。
病期B(77例)に限ると、監視・待機療法25例、内分泌療法1例、手術療法23例、放射線療法(±内分泌療法)26例、未定1例、不詳1例でした。

最終更新日

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