湿疹・皮膚炎
湿疹とは
皮膚の表面(表皮~真皮浅層)に炎症がおきた状態です。
主な症状
皮膚のかゆみを伴って、赤く(紅斑)、ブツブツ(丘疹)、水ぶくれ(小水疱)を生じます。時間がたつとカサカサ・皮むけやかさぶた(鱗屑、痂皮)になります。
湿疹の多くは、外から皮膚表面についた外来物質(漆などの植物成分、化学物質、化粧品、薬物、食物、花粉、ハウスダスト、動物の毛、金属など)が原因とされますが、原因物質が明らかになることはまれです。
主な治療法
皮膚の炎症を抑えるため、ステロイド外用薬(軟膏、クリーム、ローションなど)を塗り、かゆみ止めの内服薬(抗ヒスタミン薬)を使用します。あまりにひどい症状の場合、短期間ステロイド内服を行う場合もあります。
原因検査について
パッチテスト
職場で洗剤を使うと悪化する、機械油に触れるとひどくなる等、疑わしい化学物質がある場合、その成分を皮膚に貼って、かぶれるかどうか調べる検査です。
実際の検査方法:
疑わしい成分を少量、背中や二の腕に貼り付けます。2日間(48時間)貼りっぱなしにした後ではがし、貼った部位が赤くなったり、ブツブツ・水ぶくれがでないか、2日後(48時間)、3日後(72時間)、1週間後に判定します。
何度も通院する必要があり(例えば、月曜に貼り、水曜・木曜・1週後の月曜に判定)、また貼っている間は汗をかかないように、日常生活が制限されます。
金属成分や、代表的な化学物質(ジャパニーズスタンダードアレルゲン)を製品化したパッチテストパネルもあります。
ステロイドについて
ステロイドの塗り薬を忌避する方がいます。
理由は、怖い薬だと、テレビやネットで言われていたから、リバウンドになるから、重大な副作用が起こるから、など。ステロイドは、本当にこわい薬なのでしょうか?
副腎皮質ステロイドとは
副腎皮質で産生されるホルモンのひとつです。
〇ホルモンとは、体の変化に応じて内分泌器官でつくられる物質のこと。
〇血液に入って体内を循環し、体の別の組織で効果を発揮する。
〇副腎皮質とは、腎臓の上にあるちいさな臓器(重さ5g程度)。
〇様々なホルモンを産生する重要臓器。
〇ステロイドは体内で、免疫機能調節、炎症制御、炭水化物代謝、蛋白質異化など多彩な働きがあります。
〇治療薬として、喘息などアレルギー性疾患、膠原病・血管炎、炎症性腸疾患、サルコイドーシス、ある種の腫瘍(リンパ腫など)などに広く使用されている、現代の医療にとってとても重要な薬剤です。
〇ステロイド内服や外用には、多くの(特有の)副作用がありますが、その副作用は、全身投与(内服や点滴)と外用(塗り薬)とでは、異なります。
副腎皮質ステロイド全身投与(飲み薬、点滴注射)による副作用
〇副腎皮質の萎縮・機能抑制(副腎不全)
〇易感染性(感染症にかかりやすくなる)
〇糖尿病
〇高血圧
〇脂質異常症・肥満、動脈硬化・脳梗塞や心筋梗塞
〇消化器症状(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)
〇精神神経症状(不眠や気分の変動など)
〇骨粗鬆症・骨壊死(大腿骨頭壊死)
〇眼症状(緑内障、白内障)
〇見た目の変化:肥満、満月顔貌(ムーンフェイス)、多毛など
〇ステロイド筋症(ミオパチー)、筋力低下
〇月経不順、血栓症
副腎皮質ステロイド外用(塗り薬)による副作用
〇皮膚萎縮、毛細血管拡張・潮紅
〇皮膚脆弱性による紫斑、皮膚剥離(スキンテア)
〇多毛(たもう)
〇皮膚感染症(ニキビなど)
〇酒さ様皮膚炎(しゅさようひふえん)
酒さ様皮膚炎 (口囲皮膚炎ともいう)とは、ステロイドの塗り薬を、長期間顔面に使い続けることで発症する疾患です。ステロイドの塗り薬を中止することで、一過性に悪化(いわゆる
“リバウンド”)、その後軽快します。
皮膚科医の標準的見解
ステロイド外用薬を適切に使用すれば、日常診療における使用量では、副腎不全、糖尿病、満月様顔貌などの内服薬でみられる全身的副作用は起こり得ない。
局所的副作用のうち、ステロイドざ瘡、ステロイド潮紅、皮膚萎縮、多毛、細菌・真菌・ウイルス性皮膚感染症などは時に生じうるが、中止あるいは適切な処置により回復する。
ステロイド外用薬の使用後に色素沈着がみられることがあるが、皮膚炎の鎮静後の色素沈着であり、ステロイド外用薬によるものではない。
まれにステロイド外用薬によるアレルギー性接触皮膚炎が生じうるが、その際、基剤や添加物による接触皮膚炎にも注意する。(日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎ガイドラインより)
ステロイドの塗り薬を使うにあたっての注意
1. 効果の強さで5段階に分けられています。
強さ | 一般名 | 代表的な商品名 |
最も強力 (Strongest) | クロベタゾールプロピオン酸エステル ジフロラゾン酢酸エステル | デルモベート ダイアコート ジフラール |
かなり強力 (very Strong) | モメタゾンフランカルボン酸エステル ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル フルオシノニド ベタメタゾンジプロピオン酸エステル ジフルプレドナート アムシノニド ジフルコルトロン吉草酸エステル ヒドロコルチゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル | フルメタ アンテベート トプシム リンデロン・DP マイザー ビスダーム ネリゾナ テクスメテン パンデル |
強力 (Strong) | デプロドンプロピオン酸エステル デキサメタゾンプロピオン酸エステル デキサメタゾン吉草酸エステル ベタメタゾン吉草酸エステル ベクロメタゾンプロピオン酸エステル フルオシノロンアセトニド | エクラー メサデルム ボアラ ザルックス リンデロン・V ベトネベート プロパデルム フルコート |
中程度 (Mild) | プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル ロリアムシノロンアセトニド アルクロメタゾンプロピオン酸エステル クロベタゾン酪酸エステル ヒドロコルチゾン酪酸エステル | リドメックスコーワ レダコート アルメタ キンダベート ロコイド |
弱い (Weak) | プレドニゾロン ヒドロコルチゾン | プレドニゾロン オイラックスH |
強い順に
①最も強力(strongest)
②かなり強力(very strong)
③強力(strong)
④中程度(mediumまたはmild)
⑤弱い(weak)
2. 体の部位によって、ステロイドの吸収率 (効き目≒副作用の出やすさ)が異なります。
吸収率が高い部位:顔面、首、外陰部など
・弱いステロイドで効果があります。
・強いステロイドを長期間塗ると皮膚萎縮などが出やすい。
吸収率が低い部位:手掌、足底など
・強いステロイドをしっかり塗らないと効き目が出ません。
・副作用は出にくい。
注意点
1.化膿したところ、ジクジクしてキズのひどいところ、水虫やヘルペスには塗らないでください。
2.短期間(1,2週間)で治る病変(かぶれ、日焼け、虫刺され)であれば、あまり強さや副作用を気にせず塗れます。
顔に強いステロイドを塗ることもあります。十分な強さのステロイドを、短期間しっかり塗って治すことが、
治療の基本です。
3. 数週間~数か月以上続けてステロイドを塗る場合、皮膚の副作用が出ることがあります。ただし、皮膚の副
作用は、中止後半年ほどで改善します。
4.顔に塗る場合:
中等度の強さ(medium)のステロイドが基本です。
弱いステロイドでも、長期間(数か月~年単位)使い続けると酒さ様皮膚炎をきたすことがあります。
5.体・四肢に塗る場合:
発疹の程度に応じて最も強力(strongest)~中等度(medium)のステロイドを使用します。
5. 外陰部:強力(strong)以下のステロイドが基本です。真菌感染(タムシ、カンジダ症)を来しやすいので
注意します。
6. 足底や手など:最も強力(strongest)やかなり強力(very strong)のステロイドを使います。角質が厚く、吸収
しにくいので、強いステロイドが必要です。副作用は出にくい部位です。
外用薬の塗り方について
〇適正な外用量について、Finger-Tp-Unitという考え方が提唱されています。
〇1FTU(Finger-Tip Unit)≒0.5g
〇1FTUは両手(手のひら2枚分)に1回に塗る量です。
〇チューブをつまんで、軟膏・クリームを大人のひとさし指の第一関節の長さに出した量です。
〇ローションの場合、1円玉大が1FTUに相当します。
FTUに基づいた使用量の例として、成人の場合
小児の場合など
ほかの目安として、塗布部位がテカッと光り、ティッシュペーパーが付着する程度が適量です。